福祉国家構想研究会は、旧来の開発主義路線でも、新自由主義改革路線でもない、新たな福祉国家型の社会再建を目指し、現代日本の状況に即した社会構想・国家構想と各領域の改革政策を検討する研究会です。「新たな福祉国家」は、典型的な資本が多国籍資本となり、経済グローバリズムが高度に展開した環境の下での対抗構想であり、同時に、これまでの日本社会が福祉国家型の生活保障枠組をほとんど持っていなかったことを重視する対抗ビジョンです。
本研究会は2008年12月に発足しました。1997年から始まった本格的な新自由主義改革(「構造改革」)に大きなブレーキがかかりはじめていた時期であり、翌2009年9月には民主党政権が誕生しています。
それまでも、本研究会の共同代表である岡田知弘、後藤道夫、二宮厚美、渡辺治らは、「構造改革」およびその序幕たる1990年代前半の「政治改革」を、日本における本格的な新自由主義改革ととらえ、旧来の開発主義的支配からの移行を分析するとともに、新たな平和・福祉国家型の社会構想、地域構想をそれに対置する努力を行ってきました(『講座 現代日本』(大月書店)、『講座 戦争と現代』(同)、雑誌『ポリティーク』(1~12号 旬報社)など)
本研究会は、政権交代の意義を強調するとともに、揺れ動く民主党政権がとりくむべき各領域の基礎的課題を分析・提示し、新自由主義への妥協・逆行を批判する努力を続けました。 四代表の共著になる『新自由主義か新福祉国家か──民主党政権下の日本の行方』(旬報社、2009年)はそうした研究作業の出発点となりました。また、福祉国家型の社会保障構想の大枠については、参加者の少なからぬ部分が本研究会と重なる「福祉国家と基本法研究会」が2009年から集中的に作業を行い、2011年秋に『新たな福祉国家を展望する───社会保障基本法・社会保障憲章の提言』(旬報社)を発表しています。
2010年からは、さらに詳細な各領域の分析と政策提起のために、医療、介護、財政、教育、雇用、安保、自治体、比較福祉国家等の領域別に研究会が組織されました。これらの部会の研究成果として、現在六冊の「シリーズ新福祉国家構想」、および『安倍医療改革と皆保険体制の解体──成長戦略が医療保障を掘り崩す』(いずれも大月書店、2011年~2017年)が発行されています。
2012年末には民主党政権が崩壊して安倍第二次政権が発足し、それ以降、「グローバル競争国家」型の市場介入をともなった強権的かつ急進的な新自由主義改革、および、本格的な戦争可能な国家体制づくりが早いスピードで進みました。その総括的な研究として四代表による『<大国>への執念──安倍政権と日本の危機』(大月書店、2014年)が出さています。現在では、改憲・安保法制・沖縄新基地問題とともに、各社会領域での制度改悪と労働・生活の悪化が急であり、本研究会の作業課題はなお山積みの状態です。
2018年現在、本研究会には約80名の研究者、実務家が参加し、医療/介護、教育、雇用/労働、財政/税制、地方/自治体、安全保障/外交、国家機構などの領域ごとに研究会が行われ、全体的な課題把握・政策調整・財源検討・各種企画については、共同代表、副代表、事務局メンバーによる会議が担っています。交通費を中心とする研究会費用は社会保障運動団体、労働組合等からの寄付によってまかなわれてきました。
2017年10月に、研究会メンバーによる記事を中心とした「福祉国家構想研究会ブログ」を立ち上げ、2018年1月には公式ウェブサイトを作りました。旧来からの書籍による発信に加え、ネット発信も広がる予定です。公開研究会、講演会は年に2回ほどのペースで行われています。