北朝鮮の核・ミサイル問題の危険性を高める安倍政権の戦争法・9条改憲・核抑止――衆院選で被爆国にふさわしい政治へ転換を

安倍政権がうたう“国難”の実態

9月25日、安倍首相は解散・総選挙に踏み切った根拠のひとつとして、次のように述べて北朝鮮の核・ミサイル開発への対応を挙げました。

 北朝鮮が意図的に緊張をあおっている今だからこそ、私たちはぶれてはならない。北朝鮮の脅かしに屈するようなことがあってはなりません。私はこの選挙で国民の皆さんから信任を得て、力強い外交を進めていく。北朝鮮に対して、国際社会と共に毅然(きぜん)とした対応を取る考えであります。

2017年9月25日 安倍内閣総理大臣記者会見

北朝鮮の核・ミサイル開発は国連安保理でたびたび非難決議が採択されてきたように、北東アジア地域の平和と安全を損ねるものであることは確かです。

しかし、北朝鮮が核・ミサイル開発を続けて標的としているのはアメリカです。今年になってくり返されている大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験も、日本本土ではなく、アメリカを意識しておこなわれたのは明らかです。

北朝鮮が核不拡散条約(NPT)脱退を表明したのが2003年1月、初めて核実験をおこなったのが2006年10月です。初めての核実験は第一次安倍政権の時でした。北朝鮮の核・ミサイル技術が向上しているのは確かですが、そうであればなおさら、これまでの対北朝鮮外交についての真摯な見直しが必要ではないでしょうか。

日本やアメリカの姿勢こそ問題――戦争法や9条改憲では解決できない

自民党の総選挙政策の1番目の柱が北朝鮮問題への対応です。北朝鮮が核・ミサイルの放棄を掲げない限り日本から対話に踏み出すことはせず、日米同盟を強固にして抑止力をたかめ、北朝鮮へ最大限の圧力をかけるというのがその内容です。

実際、アメリカは韓国などの同盟国とともに、日本海や東シナ海で、核兵器を搭載できる爆撃機も動員した大規模な軍事演習をくり返しています。安倍政権はこの間、海上自衛隊による米艦船の防護(自衛隊法95条の2)や燃料補給(戦争法成立後に新たにつくられた日・米物品役務相互提供協定〔ACSA〕)をおこなってきました。

自衛隊法(2015年9月19日に成立した戦争法の一部)より抜粋

(合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用)
第九十五条の二 自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(次項において「合衆国軍隊等」という。)の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があつた場合であって、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。

安倍政権が戦争法を制定した根拠のひとつが、北朝鮮の“脅威”をはじめとする日本をめぐる安全保障環境の悪化でした。このときも、抑止力を高めることが重要と安倍政権は盛んに宣伝しました。しかし、戦争法を成立させても、それを施行しても北朝鮮の核・ミサイル開発を止められていません。「抑止力がまだ足りないからだ」といって圧力を高めても、軍事的な緊張を高めるだけです。

北朝鮮がなぜそんなにも核・ミサイル開発にこだわるのでしょうか。まずいえるのは、北朝鮮がとっている「自国の安全は核兵器の力で守る」という姿勢、つまり「核抑止」の考え方そのものは、アメリカやその同盟国である日本や韓国、そしてロシアや中国と同じだということです。本当に北朝鮮に核・ミサイルを放棄させたいのであれば、まず北朝鮮の体制の安全を保証し、日本やアメリカは自らの核兵器に頼った安全保障政策を見直さなければなりません。

北朝鮮のように、核兵器を持つ国が新たに生じたり、核戦力が高まったりする「核拡散」が、米ソ冷戦終了後、安全保障の大きな問題となってきました。この根幹には、アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国にだけ核保有を容認するという核不拡散条約(NPT)の不平等性があります。

さらにいえば、アメリカは、NPTに加わらずに核保有に至った国、あるいは核開発疑惑がもたれた国に対して、差別的な対応に終始してきました。紛争が絶えない中東では、NPTの五大国が黙認するもとで、1970年代からイスラエルが核兵器を保有しています。1998年から99年に相次いで核実験をおこなったインドやパキスタンの核保有も事実上黙認されています。アメリカは、インドと原子力協定を結んで原子力技術や核物質を提供し、パキスタンとはテロ対策などとの関係で軍事的な協力関係にあります。他方で、大量破壊兵器を保有している確証がなかったにもかかわらず、アメリカの軍事力で政権転覆させられたイラクやリビアのような国もあります。

安倍政権は「対話のための対話には意味がない」としばしばとなえますが、これはアメリカ・オバマ政権が北朝鮮に対してとってきた「戦略的忍耐」政策への追随にほかなりません。先に核兵器保有に至り、より多くの核戦力を持っている側が「おまえの国が核とミサイルを捨てない限り話し合いには応じない」と言っても説得力を持ち得ません。

むしろ見え隠れするのは、日本国憲法第9条改正のもくろみです。安倍首相は、今年5月3日、日本国憲法9条に3項を付け加えて自衛隊を明記する改憲(加憲)を2020年に実現すると打ち出しました。これは今回の総選挙での自民党の政策にも盛り込まれました。

加憲という方式はもともと公明党のアイディアです。日本維新の会も憲法改正本部を9月2日に始動させたばかりです。希望の党は、憲法9条を含む憲法改正論議を総選挙公約に入れています。北朝鮮問題をてこに、自民・公明・維新・希望の改憲勢力で衆議院でも3分の2以上の議席をとり、憲法9条の改憲を強行することが、安倍政権のねらいです。

軍事衝突をさけ、核兵器禁止と北東アジアの平和構築へ転換を

北朝鮮問題をめぐって緊急に求められるのは、アメリカと北朝鮮の間の軍事的緊張を緩和し、軍事衝突を回避することです。アメリカでさえ、軍事力で威嚇する一方で、北朝鮮との外交パイプを模索しています。戦争放棄と戦力不保持を定めた憲法9条をもつ日本が、本来はこの立場に立たなくてはなりません。

日本は、国連憲章と日本国憲法9条の理念に従って、国際紛争の平和的外交的解決を大原則にすべきです。アメリカや韓国などがおこなう北朝鮮への軍事的挑発には加担せず、戦争法も発動してはなりません。北朝鮮に対する無条件協議を、アメリカをはじめとする関係各国に提起し、拉致問題の解決と日朝平壌宣言の履行を改めて宣言することが必要です。

ただ、これだけでは問題の根本的解決にはなりません。北東アジアで、日本や韓国がアメリカの「核の傘」の下にあり、中国やロシアが核兵器を持ったままという状況は変わらないからです。

日本は、核兵器禁止条約にすみやかに署名し、国際社会における核兵器禁止・廃絶の流れをリードする立場に外交政策を転換しなければなりません。禁止条約が定める核使用威嚇の禁止、自国領域内への核軍備配備などの禁止について国内的措置をとる必要があります。既存の核保有国(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)や韓国に、禁止条約への署名をよびかけていく必要があります。

核兵器禁止条約(2017年7月7日国連で採択)より抜粋

第1条(禁止)
1.締約国は、いかなる場合にも、次のことを行わないことを約束する。
(a)核兵器またはその他の核爆発装置を開発し、実験し、生産し、製造し、その他の方法によって取得し、保有しまたは貯蔵すること。
(b)いかなる核兵器またはその他の核爆発装置またはその管理をいずれかの受領者に対して直接または間接に移譲すること。
(c)核兵器またはその他の核爆発装置またはその管理を直接または間接に受領すること。
(d)核兵器またはその他の核爆発装置を使用し、またはその使用の威嚇をすること。
(e)この条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことにつき、いずれかの者に対して、いかなる様態によるかを問わず、援助し、奨励し、または勧誘すること。
(f)この条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことにつき、いずれかの者から、いかなる様態によるかを問わず、いずれかの援助を求めること又は受けること。
(g)自国の領域又は自国の管轄もしくは管理の下にあるいかなる場所においても、核兵器またはその他の核爆発装置を配置し、設置しまたは配備することを許可すること。

朝鮮半島の分断状態も、かつてこの地を植民地支配した日本が、自らの行為の真摯な反省のもと、北朝鮮との国交回復や南北朝鮮の平和協定締結など、より平和的な状況へ変えていかなければなりません。そういう道でしか、日本の安全保障環境をよくすることはできません。

必要なのは武力による解決や改憲ではなく、憲法に則った、被爆国にふさわしい平和外交です。総選挙では、この立場に立つ政治勢力の議席を増やさなくてはなりません。そうすることによって、北朝鮮問題の解決をはじめとする北東アジアでの平和構築や、安倍政権がねらう改憲を止める足がかりをつくることができます。さらにいえば、日本には安倍政権の軍事大国化路線とは異なる、平和を求める声が確固として存在することを国内外に示すこともできるでしょう。

梶原渉(福祉国家構想研究会事務局、平和・安保部会/原水爆禁止日本協議会事務局)

※本記事の内容は、筆者の個人的見解であって、所属する団体を代表するものではありません。

▼関連文献

シリーズ福祉国家構想5

渡辺治 編・福祉国家構想研究会 編
『日米安保と戦争法に代わる選択肢
――憲法を実現する平和の構想』(大月書店)

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