安倍首相「消費税増税で教育・社会保障」の“まやかし”――実際は教育・社会保障の削減、生活難と格差拡大まねく

今回の衆議院解散・総選挙について、安倍首相は消費税増税分の使途を見直し、その一部を教育の無償化や子育てに用いることを最大の理由として挙げました。

教育の無償化を進め、待機児童問題を解決し、社会保障を充実することは必要です。しかし、そのために消費税の増税分を使うというのは、“まやかし”以外のなにものでもありません。

消費税増税分を教育無償化や子育て支援に使うというのは“まやかし”

2012年の野田内閣時代に自民・公明・民主3党が合意して実施した「社会保障・税一体改革」では、消費税率引き上げによる増収分を社会保障4経費(年金、医療、介護、子ども・子育て支援)に用いることとして、それを消費税の「社会保障財源化」と言ってきました。

これは、1997年4月の消費税率3%から5%への増税時に、消費税を基礎年金、老人医療、介護の高齢者3経費に充てるとして、「福祉目的化」と呼んできたのですが、そこに「子ども・子育て支援経費」を含めて拡大したものです。

1999年度以来、国の一般会計予算書の予算総則に「消費税の収入が当てられる経費(地方交付税交付金を除く。)の範囲」が明記されるようになり、予算の説明などで対象経費の金額と消費税収の額などが掲げられるようになりました。

この流れからすると、安倍首相のいう消費税増税分の使途変更は、「消費税収が充てられる経費の範囲」に幼児教育の無償化などを加えるものと考えらえます。

しかし、消費税の「福祉目的化」や「社会保障財源化」は、消費税と対象経費を他の財源・経費と切り離して別勘定に設定すればそれなりに意味を持ちますが、そうしていない現状では予算計算上の話しです(実体的には社会保障関係費の抑制の方に働きます)。

例えば、2017年度予算で、社会保障4経費(国分)は28.7兆円、それに対し消費税収は13.3兆円で、差引15.4兆円の「スキマ」があります。この「スキマ」は消費税以外の財源(所得税や法人税や国債など)で賄われています。

こういう制度の下で、仮に消費税率を2%引き上げ、5兆円の増収をすべて社会保障4経費に充てたとします。すると、これまで「スキマ」を埋めていた他の財源が5兆円余るので、それを公共事業や防衛関係費などの増加、あるいは法人税の減税、あるいは国債の減額などに回すとします。その結果、消費税の増税が公共事業や軍備拡充、大企業減税、国債の減額に使われたのと同じことになります。

つまり、消費税の「福祉目的化」や「社会保障財源化」は、実際には消費税が社会保障以外に用いられているのを見えにくくして、あたかも消費税が社会保障を充実するかのように思い込ませ、増税を受け入れやすくするための“まやかし”の仕掛けなのです。

元来、消費税の「福祉目的化」も「社会保障財源化」も、予算原則の1つである「ノンアフェクタシオンの原則」(特定の収入と特定の支出を結びつけてはならない)に反します。社会保障や教育の充実はすべての財源で手当てすることが予算制度の正道なのです。

“まやかし”の仕掛けによって削減され続ける社会保障の「自然増」

しかし、この“まやかし”の仕掛けは、非常に危険な面を持ち合わせています。それは、消費税の増税が対象経費の増加の条件とされてしまうことです。

「社会保障・税一体改革」によって消費税増税分の使途が年度計画として策定されたため、消費税が増えなければ、対象経費も増えない、削減されて当たり前のようになりました。実際、消費税率引き上げ延期とともに、社会保障関係費の「自然増」(高齢化に伴う歳出の増加)が毎年大幅に削減されています。

しかし、これは大変おかしなことです。「スキマ」は消費税以外の財源で賄っているわけですから、対象経費の増加は他の財源、たとえば所得税での不公平税制の是正や法人税率の引き上げなどによって手当てできるはずです。「社会保障・税一体改革」による消費税の「社会保障財源化」によって、社会保障関係費は自縄自縛のワナに落ち込みました。

今回の消費税増税分の使途変更表明の際、安倍首相は「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化をめざす目標自体はしっかり堅持する」と述べているので、今後、教育や子育て支援に回すために社会保障3経費を削減する可能性が高いと思われます。

そもそも、教育無償化や子育て支援の財源を、なぜ消費税に求めるのか、なぜ所得税や法人税でないのかについては、まったく説明がありません。消費税を増税すれば、インバウンド消費以外は盛り上がらない消費をさらに冷え込ませるだけでなく、生活難を深め、負担の逆進性を強めて経済格差をさらに拡大してしまいます。

税制の基本は、所得や資産など経済力のあるものが多くを担う「応能負担原則」です。ところが、80年代後半以降、応能負担原則に反する税制改革が進められ、税制は財源調達機能も所得再分配機能もなくし、大企業には巨額の内部留保が蓄積され、経済の低迷を招いてきました。「所得税の総合累進課税化、法人税率の引き上げなど、応能負担原則を徹底することによって、社会保障の充実や教育無償化の財源を確保し、経済を活性化する」、そういう財源構想を持っている政党や候補者に投票されることをお勧めします。

消費税をもてあそぶ安倍首相

安倍首相ほど消費税を政略の手段として用いる政治家はいません。一部の富裕層しか所得の増えない中で、誰もが消費税の増税は困ります。そういう消費税増税を人質に取り、行うとみせかけながら、延期して選挙で勝つというパターンを繰り返してきました。

2012年6月、自民・公明・民主3党は「社会保障・税一体改革」を合意し、同年8月関連法案を成立させました。2012年12月に政権に復帰した安倍首相は、それに基づき、2014年4月に消費税率を5%から8%に引き上げました。

その結果は、彼らが想定した以上に深くて長い景気後退でした。消費税増税・景気後退とともに、特定秘密保護法の制定や集団的自衛権行使容認の閣議決定などによって安倍内閣批判が高まり、それをかわすため、2014年11月には、当時2015年10月に予定されていた消費税増税を1年半延期するとして衆議院を解散しました。そして翌月の総選挙では、議席の減少をわずかに留めました(自民党295⇒291議席)。

2014年衆院解散時、安倍首相は「再び延期することはない」と“断言”しましたが、2016年7月参議院選挙の前になると、「リーマンショック前に似た状況が生じている」という無理な理由をつけて、消費税増税を2017年4月から2年半延期することを表明し、戦争法の制定などによる内閣支持率の低下を押し止め、参議院の議席を増やしました(自民党115⇒121議席)。

そして今回です。財界は巨額の内部留保への批判の高まりが大企業増税に跳ね返ることを恐れて、消費税の3度目の延期に強く反対したので、安倍首相は延期ではなく、増税分の使途を教育や子育て支援にも広げることを口実に衆議院の解散・総選挙に踏み切りました。「森友学園・加計学園疑惑」をそらし、野党側の体制が整わない政治状況をみて、9条改憲に必要な議席を確保するための政略以外のなにものでもありません。

消費税の増税分を教育や子育て支援に使うというのが“まやかし”であることはすでに説明しましたが、そこまで「もりかけ疑惑」によって追い詰められたともいえます。

消費税をもてあそぶ安倍首相を退場させ、公平な税制を構築して、社会保障と教育を充実させましょう!

梅原英治(大阪経済大学教授、財政学)

▼関連文献

シリーズ新福祉国家構想4

二宮厚美 編
福祉国家構想研究会 編
(梅原英治ほか)
『福祉国家型財政への転換
 ――危機を打開する真の道筋』(大月書店)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です