【紹介、拡散希望】生活保護基準の引き下げに反対する緊急声明:佛教大学社会福祉学部教員有志
生活保護基準の引き下げに反対する緊急声明
2018年1月31日
厚生労働省は、2017年12月22日に生活扶助基準や母子加算、児童養育加算などの見直しを2018年度から行うことを発表しました。その結果、生活扶助費は都市部の単身世帯や多子世帯を中心に約7割の生活保護受給世帯で最大5%削減され、母子加算額の平均19%削減などとあわせて、最終的に160億円の生活保護費削減を図る予定です。今回の生活扶助基準、加算等の見直しは、2004年の老齢加算の段階的廃止、2013年の生活扶助基準の引き下げ、2015年の住宅扶助基準引き下げ・冬季加算削減に続くものです。そうしたなか、2013年の基準切り下げに対して撤回を求める集団訴訟「いのちのとりで裁判」が各地で提訴されています。健康で文化的な生活保障の指標である保護基準を問う裁判が行われているさなかに、さらなる基準引き下げが実施されようとしていることに、深い憂慮をいだくものです。
今回の引き下げは、社会保障審議会生活保護基準部会における生活扶助基準、有子世帯の扶助・加算に関する検証結果を受けたものですが、基準額の検証は、全国消費実態調査に基づいて年間収入階級第1・十分位(所得階層を10に分けた下位10%の階層)と生活扶助基準の消費水準との比較で行われ、第1・十分位層(一般低所得階層)の消費水準に生活扶助基準をあわせるという考えに基づいて行われました。しかし、2013年の基準部会報告書でも言及されていたように、第1・十分位に属する人々の大部分はOECD基準では相対的貧困線以下にあり、比較対象である「一般低所得層」には生活保護基準に満たない収入で暮らしている人々が相当数含まれていると考えられます。日本の生活保護の捕捉率(生活保護を利用する資格のある人のうち実際に利用している人が占める割合)は極めて低い状況のなか、保護基準をこうした「一般低所得世帯」にあわせるという検証手法では、その消費水準に伴って保護基準も下がり、いわば底なしの「貧困スパイラル」にはまり込んでしまいます。
すべての人の健康で文化的な生活保障水準の指標である保護基準を「一般低所得世帯」との比較で検証することは妥当といえるのか、大いに疑問です。今回の基準部会報告書でも、現行の水準均衡方式による一般低所得世帯との比較で検証することの問題点は指摘されており、MIS(Minimum Income Standard)法など、新たな検証方法の開発の必要性に関しても言及されていました。現在、「いのちのとりで裁判」が各地で提訴されていますが、厚生労働省は生活保護利用者の声に耳を傾け、基準を検証することが重要です。妥当性に疑問のある検証方法に基づいた基準引き下げは、生存権を侵害する恐れがあり、より妥当性のある方法を開発するまでは、少なくとも現行の基準額を堅持すべきです。
今回の保護基準の見直しは、図らずも消費水準が低下し、貧困化の進む低所得層の広がりを示す結果となりました。いま必要なことは、低所得層の消費水準低下にあわせて基準を引き下げることではなく、賃金や年金等を引上げ、社会保障を拡充させることで生活の底上げを図ることです。保護基準はすべての人の生活保障の指標であり、最低賃金、地方税非課税基準、各種社会保険制度の保険料、一部負担金の減免基準、就学援助など数多くの制度と連動しています。基準引き下げは、生活保護を利用していない多数の市民の生活をも圧迫し、さらに貧困を拡大させる要因となります。
憲法25条の謳う「健康で文化的な最低限度の生活」とは、まさに「健康で文化的な人間としての生活」にふさわしいミニマムスタンダードにより保障されるべきものです。決して生理的機能を満たせば事足りるものではなく、ひとりひとりの尊厳ある暮らしを国は保障する義務があります。私たちは、今回の保護基準の検証結果に基づいた生活扶助基準、母子加算等の見直しは、憲法25条が保障する健康で文化的な最低限度の生活としての生存権を侵害するものとして強く反対するとともに、その撤回を求めます。
佛教大学 社会福祉学部教員・福祉教育開発センター教員有志
代表呼びかけ人:岡﨑祐司(社会福祉学部長)・横山壽一・加美嘉史
新井康友・池本薫規・泉洋一・井上洋平・緒方由紀・岡村正幸・金田喜弘・黒岩晴子・後藤至功・佐藤順子・塩満卓・鈴木勉・武内一・田中智子・津田奈保子・長瀬正子・藤松素子・村岡潔・渡邉保博(50音順)
附記:2018年2月1日に、リード部分の訂正と、賛同人が増えた点について変更を加えました。
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