一国の中でも地域的に不均等なコロナ感染拡大、韓国やドイツから学び、PCR検査と休業・休職・賃金補償を国が全面的に行い、自治体ごとの防疫・医療資源集中が急務
1 最新の新型コロナウイルス感染者数データ(国際比較)から見えてくるもの
オックスフォード大学のOur World in Dataと、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)のサイトから、最新の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数の動きをグラフ化して、見てみました。
アメリカ、スペイン、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの新規感染者数
上のグラフは、3日平均値の新規感染者数の増減状況を、アメリカ、スペイン、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアを取り上げて比較しています。ヨーロッパ諸国の方は、4月1週目をピークに抑え込んできている(一進一退はありますが)ようですが、アメリカは一旦減少しますが現時点ではまだピークを打っていない状況であることがわかります。
地域的に不均等、アメリカ全体が同じ状況ではない
上のグラフは、アメリカ連邦政府のCDCが発表している4月10日付の最新速報から取った感染者数の人数を段階ごとに塗り分けした地図です。テレビに出てくるのはニューヨーク市ばかりですが、同市はグラフの最も濃い段階(感染者数5,001人以上)に属しており、アメリカでも最も厳しいところです。ただし、アメリカ全体が同じ状況でもない(つまり、地域的に不均等である)ことを見ておく必要があります。これは、日本でも同様です(※後述します)。
このままだと韓国のピークを越える水準になる日本
上のグラフは、再び、オックスフォード大学のデータベースに基づいて、日本と韓国の新規感染者数(3日平均)を示しました。韓国は、3月2日にピークを打ちますが、その後徹底的なPCR検査を行い、また感染者の8割が新興宗教団体関係者であったことがわかったため徹底的なクラスターつぶしも展開し、新規感染者数は減っていきます。そして、4月3日には日本の新規感染者数を下回るほどに落ち着いてきました。4月11日の新規感染者数は日本が480人に対して、韓国は22人に留まっています。
PCR検査が圧倒的に少ない日本ですが、最低値と考えられるデータと見たとしても、4月9日から11日にかけての3日間で2倍以上の新規感染者が出ています。このままのペースでいくと明日には韓国のピークを超える水準になることが予想されます。
韓国やドイツから学び、PCR検査と休業・休職・賃金補償を国が全面的に行い、自治体ごとの防疫体制強化、医療資源の集中を急ぐべき
これまでの対策・制度に拘泥せず、韓国やドイツの取り組みから謙虚に学び、徹底的なPCR検査の実施が行えるようにするとともに、休業・休職・賃金補償を国が全面的に行いながら、地方自治体ごとの防疫体制の強化と、医療崩壊を招かないための医療機関への重症患者と医療資源(人工呼吸器、医療用マスク、防護服等)の集中を急ぐべきです。
2 3月下旬から4月1週にかけてのコロナウイルス統計分析
表1は、オックスフォード大学のOur World in Dataというサイトにある、新型コロナウイルスの統計 Statistics and Research にもとづいて作成したものです。原資料は、WHOなどが発表したデータです。中国については比較可能なデータがないために本表では外しています。また、各国共通の統計基準や調査方法で収集した数字ではなく、例えば、日本やアメリカの検査件数や死亡数は低めに出ているという指摘もあります。その点に留意して、読み解く必要があります。
3月20日時点で注目すべきは、なんといっても日本の人口100万人当りの新型コロナウイルス感染を確定させるためのPCR検査数の少なさです。韓国が6,148人、イタリアが3,499人、ドイツが2,023人と多く、アメリカでも348人に対して、日本は118人に留まっていました。
日本の場合、医療崩壊を防ぐための独自の対応だと説明されましたが、4月2日時点での感染者数は日本でも2.75倍に達しました。アメリカやイギリスの17倍、10倍という感染爆発と比較すると低い伸びですが、韓国の1.16倍を上回ってしまったのです。しかも、新型コロナウイルス感染症による死亡率はこの時点でアメリカ並みの2.4%となっていました。これに対し韓国では1.7%、ドイツでは1.2%に留まっています。
これらの数字の背景には、公衆衛生に関わる国民の意識や公的体制の整備状況、医療保険制度の違い(国民皆保険である日本と民間保険が主で低所得者の医療アクセスが制限されているアメリカとの違いなど)、病院・診療所制度の違い(ホームドクター制度が充実しているドイツ)など、多様な要因がありますが、基本的にはその国の福祉国家としての民度に規定されていると考えられます。
3 日本国内の都道府県別の地域的不均等
最後に、4月10日時点で、厚生労働省が発表しているコロナウイルス関係の都道府県別データに基づいて、誰にでも直感的にわかるグラフを作ってみました。
テレビでは、東京や大阪のデータしか見せていませんが、全国的にみると、地域的不均等が明確になってきています。
図1は、都道府県別に感染者数の全国構成比(4月10日時点)と4月3日から10日にかけての感染者増加数に占める各都道府県の比率(これを増加寄与率と呼びます)を折線グラフで、今年1月1日現在の人口構成比を棒グラフで示しています。明らかに東京、大阪をはじめとする大都市圏で、人口比をはるかに上回る増加寄与率になっていることがわかります。とくに東京は増加寄与率が人口構成比の約3倍に達し、感染者構成比さえも上回っており、感染の勢いが強いことを意味しています。
他方、岩手県は現時点でゼロ人であるほか、地方では感染者は出ているものの「感染爆発」には至っていません。ここで、もう一つ見てほしいのが図2です。これは、人口10万人当たりPCR検査数と陽性比率(感染者比率)を都道府県別に見たものです。
陽性比率が30%を超えているのは東京都と大阪府です。いずれも人口当たりの検査率が低いところです。クラスターと目されている集団に検査の対象を絞ってきたことによると考えられます。これに対して、最も検査件数が多いのは、和歌山県です。同県では、早い時期に湯浅町の病院で感染者が出たために、医療スタッフや患者、住民の不安を払しょくするために、知事が先頭に立って徹底的な検査をおこないました。その結果、陽性比率も低く、かつ新規発生者も他府県関係者に限られています。
和歌山県の取り組みから学び、検査実施で症状別に区分けし患者の命を救うこと
いずれにせよ韓国やドイツ、和歌山県の取り組みから学ぶべきことは、検査の実施によって感染者を見つけ、症状別に区分けすることで重症者や他の患者の命を救うことの重要性ではないでしょうか。
一国のすべての地域で同一水準で感染が広がっているわけではない
テレビの解説では、新型ウイルスは免疫力を国民の6~8割が持つまで感染が止まらない(これを集団免疫と呼んでいます)ので、ワクチンが開発されるまで、感染者増を抑える必要があるとよく言われています。これは、一国が均等な人口密度と交通圏でなりたっていることを前提とした議論であり、地域経済学の知見からみると、首をかしげざるを得ません。
「都市封鎖」を実施している各国でも日本でも、一国のすべての地域で、同一水準で感染が広がっているわけではありません。人口の過密度、日常的交通圏、地方自治体ごとの公衆衛生・医療・福祉に関わるストックや政策の違いによって不均等性があることに注意しなければなりません。
地域的不均等があるため先の全国一律の学校休校措置は有効ではなかった
だからこそ、先の全国一律の学校休校措置は有効ではなかったといえます。常識的に考えれば、ウイルスに感染するか否かは、最終的には一人ひとりの個人の行動様式と防疫力や免疫力にかかっています。そして住民が生活している領域を地域ごとに把握することができるのが市区町村という基礎自治体や、それを補完する都道府県です。
現場で公衆衛生や医療・福祉に関わる政策を決定・執行したり、住民の生活を支える地域産業や中小企業・農家支援を地域の個性にあわせて立案・展開できるのも地方自治体です。この地方自治体が中心になって、住民の生活に近いところで地域単位での防疫力、免疫力を形成し、地域産業と住民生活の持続性を確保することが求められているのではないでしょうか。
岡田知弘(福祉国家構想研究会共同代表/京都大学名誉教授/京都橘大学教授)
※岡田知弘氏による2020年4月12日のFacebook投稿より転載
▼※2020年4月14日追記
オックスフォード大学の Our World in Data に基づいて、日本と韓国の新規感染者数(3日平均)の最新動向(4月12日時点)を作図してみました。予測したように、とうとう日本の新規感染者数が韓国のピークを超えてしまいました。しかも、急激に増えつつあります。まだまだ収束の芽は見えません。(岡田知弘)